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サイコパスの見る世界を歌う! 道尾秀介が物語から曲を作った理由とは? | 「インタビュー(本・小説)」一覧 | 「特集(本・小説)」 - カドブン

19歳のサイコパスが主人公のミステリー『スケルトン・キー』がモチーフとなった楽曲『HIDE AND SECRET』が2月に発売! 発売を記念して、アーティストデビューされた道尾秀介さんのインタビューをご紹介します。

小説と世界観が同じ曲は初めて


――道尾さんはこれまでも小説家として活躍するかたわら、谷本賢一郎さんとのユニットDENなどで音楽活動をされてきましたが、今回、ソロでソニー・ミュージックエンタテインメントからメジャーデビューされます。小説家としては異例の快挙ですが、デビューに至った経緯を教えてください。


道尾:きっかけはDENでCDを出してくれるところを探していて、ソニー・ミュージックとのつながりができたことですね。DENは解散したんですが、そのあとソロの曲を聴いてもらったら、全然違う曲調だったこともあってむしろ興味を持ってくれたんです。


――デビュー曲は道尾さんの小説『スケルトン・キー』をモチーフにしているそうですね。


道尾:そうなんです。何曲か作ったなかで、1曲目はこの『HIDE AND SECRET』にしようということになりました。小説と世界観が同じ曲は初めて作ったので、メディアミックスの新しい試みとしても面白いかな、と。曲としてもメロディがキャッチーで1曲目にふさわしいのではと思います。


――『HIDE AND SECRET』に引き込まれていくような魅力があるのは、その「世界観」ゆえですね。曲についてお聞きする前に、道尾さんが音楽に興味を持ち始めた頃のことを教えてください。


道尾:父親がピアノの調律師なので、物心ついた時には家にピアノがありました。ピアノを習ったことはないんですけど、見よう見まねで弾いたりしていましたね。中学1年生の時に買ったエレキギターが、初めて持った自分の楽器です。hideが弾いていたモッキンバードでした。当時はX(のちのX JAPAN)が『BLUE BLOOD』を出した頃で、大好きでしたね。

 中学生の時はずっと1人で弾いてたんですけど、高校1年の時にバンドを組みました。その時はメタリカが全盛期。『ブラック・アルバム』が出る直前です。それからだんだんスラッシュメタルに興味が向きました。ボン・ジョヴィも好きだったので、ライブでたまに演奏したりもしてましたけど。

 ライブで演奏してたのは、スレイヤー、ソドム、メガデス、メタリカ、ボン・ジョヴィ、ギルバート・オサリバン──カバー曲の時は全くジャンルを気にしない感じでしたね。オリジナル曲の時はスラッシュメタル系の曲が多かったですけど。



――学生の時に、オリジナルの曲を作られていたんですか?


道尾:16歳の頃から作っていました。メタルとか、スラッシュメタル系の曲です。電子ピアノのクラビノーバが家にあったので、ピアノの曲もけっこう作っていました。MTRっていう、カセットテープを使う昔のレコーディングマシーンがあるのですが、それで右手と左手を別々に録音して重ねる。そうすると、僕でもかなり難易度の高い曲が作れるんですよ。


――音楽の道に進もうとは思わなかったのですか?


道尾:そりゃ、世の中のバンドをやってるすべての人と同じように「プロになるんだ」と言ってましたよ。非現実的なことでしたけどね(笑)。

 でも、ライブが楽しかったのでそれで満足していたんです。当時は肩より長いくらいの金髪だったんですよ。ライブでは必ず上半身裸っていう(笑)。



パーカッションでステージに立つ


――バンド活動をされてたのは高校までですか。


道尾:そうですね。大学に入ってからは、たまにヘルプでライブに呼ばれて何曲か歌う程度でした。19歳からは小説家をずっとめざしていたので、余っている時間はほとんど小説に使っていたんです。


――では、一度音楽から離れたという感じですか。


道尾:いや、そんなことはないですね。ギターはずっと弾いてましたし、曲も作っていました。でも発表しようという気がなかったんです。作った曲を夜中に1人で河原で歌ったりしてました(笑)。

 作家になってからはパーカッションを演奏するようになりました。もともと227のYukiさんに教えてもらったアイルランドの楽器で、ボーンズっていうものを使ってるんですけど、自分が立つステージで1番多いのがボーンズの演奏なんです。ベリーダンサーさんとコラボしたり、ロックバンドのフラジールや、オーストラリアのBertie Page Clinicというバンドの日本ツアーで叩いたりもしてます。


――ずっと途切れず音楽とおつきあいされてきた。道尾さんの人生にとって、音楽はとても大きな存在ですね。


道尾:大きいですね。僕が作る曲と書く小説はすごく似ている気がするんです。たとえば小説もサビがあるものが好きなんですよ。Aメロ、Bメロ、サビ。これで終わるかと思ったら、転調して大サビがきました──みたいな構成のもの。僕の小説ってそういうイメージを持たれてると思うんですけど、作る曲もそれに近いものがありますね。ああいううねり方が好きなんです。



エッジエフェクトを期待


――デビュー曲の『HIDE AND SECRET』についてお聞きしたいのですが、この曲を作ろうと思われた理由から教えてください。


道尾:今回の曲は、小説の『スケルトン・キー』と世界観がリンクしています。『スケルトン・キー』は19歳のサイコパスが主人公です。サイコパスの小説や映画はありますが、サイコパスの一人称で書かれる小説は見たことも読んだこともなかったので、その形式を選びました。一人称で「氏か育ちか」「nature vs. nurture」を突き詰めて、さらにミステリー的なトリックを仕掛けている作品です。

 小説と曲の世界観をリンクさせるのも今までやったことがなくて、一度、試してみたかったんです。作りたい世界観が決まっているので、メロディも歌詞もすごく書きやすい。書けば書くほど面白くなってきました。


――曲を聴いて、独特の雰囲気があると感じました。そのうえで『スケルトン・キー』と世界観が共通していると知ると、歌詞の一言一言や、曲から受ける印象が変わる。小説とどういう関係があるのかなと思いながら聴くと、さらに楽しめると思いましたね。


道尾:理想的な聴き方ですね。もちろん曲は独立したものなので、単体として楽しんでいただけるというのが絶対条件ですが、なおかつ、読んでから聴くと別の景色が見えるし、聞いてから読むとまた見たことのない別の世界が広がってくれるんじゃないかと思っています。お互いの世界のリンクを味わえるっていうのは、すごく面白い試みなんじゃないかな、と。

 先日ラジオ番組の収録で喋っていてこれだ! と思ったんですけど、『スケルトン・キー』という小説と『HIDE AND SECRET』という曲で、僕がやりたいのはエッジエフェクトかなと。「エッジエフェクト」は、たとえば川と海が交わる汽水域とか、人里と山の境界にある里山とか、異なる世界が接する場所(エッジ)で、どんなエフェクト(効果)があるかということなんです。エッジエフェクトでは生物の多様性がものすごく広がるんですよ。福岡伸一さんの対談集『エッジエフェクト(界面作用) 福岡伸一対談集』(朝日新聞出版)のタイトルにも使われています。

 僕は『スケルトン・キー』と『HIDE AND SECRET』という、小説と音楽のエッジエフェクトで、ほかのどこにもない新しいものが生まれるんじゃないか、と期待しているんです。



――小説の文章と曲の歌詞では書き方は違いますか?


道尾:先にメロディを作るので、歌詞はそれに合わせて書きます。小説は韻を踏むということもないですし、そういう意味で違いもありますね。でも、同じ世界観で小説と曲を作ると、ちょっとした仕掛けを入れたくなりますね。

『HIDE AND SECRET』に

「ねじれた景色が焼きついた目で/いつでも遠くを見つめてたっけね/何もない場所へ向けられたまま 二つの水たまりになって」

という歌詞があるんですが、『スケルトン・キー』にそれと重なる描写があるんですよ。

「眼鏡の奥の両目は天井に向けられたまま、しばらく揺れていたけれど、やがて小さな二つの水たまりになった。」

気づいた人だけが楽しめるちょっとした仕掛けですね。ほかにもよく聴くとわかるちょっとした工夫がいろいろと入ってます。


――曲は何度も繰り返し聴きますよね。何度目かに「いままで気づかなかった!」という発見がありそうですね。先ほどラジオ番組の収録、というお話が出ましたが、アーティストデビューに合わせてニッポン放送で、2020年2月にはマンスリーで『道尾秀介の「1UPライフ」』という番組が放送されたとか。


道尾:番組タイトルは何でもいいと言われたので、『透明カメレオン』でラジオ・パーソナリティの主人公がMCを務めている番組と同じ「1UPライフ」にしたんです。収録がどうなったかというと、番組の冒頭で「道尾秀介の『1UPライフ』」って言うわけですよ。『透明カメレオン』で主人公が「桐畑恭太郎の『1UPライフ』」と言うのと同じように。まさかこんな日が来るとは思っていなかったですね(笑)。


――『HIDE AND SECRET』のミュージックビデオもリリースされるそうですが、これも新しい試みですね。


道尾:そうなんです。このインタビューと同じ時期に公開になると思うんですけど、藍にいなさんという漫画家、絵師さんが作ってくれています。いろいろな活動をされている方なんですけど、すごい才能の持ち主なんですよ。今回のジャケットイラストも、にいなさんに描いていただきました。



――ミュージックビデオが楽しみです。小説家が歌手の活動もされるのは意外だという声も多かったかもしれませんが、道尾さんは今回、そのつながりについてどのように感じていますか?


道尾:それぞれのメディアの特性を生かして作ることは、とても楽しいです。小説だと文字を生かすということが面白くて書き続けています。小説の経験が曲を作るのにも役立っていて、『HIDE AND SECRET』では歌詞の文字を反転させているんですが、それは小説を書いてこないと思いつかなかったことだと感じます。

 また小説と音楽の、それぞれの面白さに気づけたということもあります。小説は自在に世界を創れるけど、一文字一文字をこのスピードで読んでくださいと細かくコントロールすることはできない。でも歌はスピードを変えたり、声をひずませたり、声の大小を変えられたりするのが面白いです。

 常に新しいこと、面白いことをやりたいと思っていて、世界観のリンクも含めた小説と音楽のインタラクション(相互作用)を味わっていただけると嬉しいです。



道尾秀介スケルトン・キー』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321801000184/

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道尾 秀介(みちお・しゅうすけ)

1975年東京都出身。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞しデビュー。09年、『向日葵の咲かない夏』がベストセラーに。10年『龍神の雨』で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』で第23回山本周五郎賞など、数々の文学賞を受賞。11年、戦後最多記録となる5回連続でのノミネートを経て、『月と蟹』で第144回直木賞を受賞した。■道尾秀介公式Twitter:https://twitter.com/michioshusuke

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